MRIによる軟骨中のPG含有量の評価
PG RESEARCH

研究|MRIによる軟骨中のPG含有量の評価

MRIによる軟骨中のPG含有量の評価 
~ヒトへのPG内服の有効性の検討~

千葉大学総合医科学講座特任教授
渡辺淳也先生

「軟骨は変性が起きると、プロテオグリカンが減少する」
MRIで分子レベルの軟骨変性を検知

整形外科領域の臨床医の立場で、プロテオグリカンの評価を進めるのが千葉大学総合医科学講座の特任教授の渡辺淳也氏である。「MRIによる軟骨中のPG含有量の評価~ヒトへのPG内服の有効性の検討~」と題した講演で、変形性関節症におけるプロテオグリカンの可能性について展望した。

60代以上の女性の半数以上が罹患する疾患

「変形性膝関節症の国内の有病者数は約2500万人と報告されており、そのうち、痛みなどの症状を有する患者は780万人に上る。特に60代以上の女性の半数以上が罹患していると言われている。膝に慢性的な痛みを生じると、日常生活活動(ADL)や筋力の低下、骨粗しょう症など、QOL低下を招く様々な状態・疾患の引き金となり、悪循環に陥る。そのため、まず痛みの抑制が重要なアプローチとなる」と話す。悪化すると人工関節の導入など、患者負担の大きな治療が必要となる。

初期の変形性膝関節症に共通して起こるイベントが軟骨の変性である。軟骨は、水分、コラーゲン、プロテオグリカンで構成される。血管組織がなく、細胞密度が低いため自己修復能に乏しい。軟骨を守るために早めの処置が求められる。治療のゴールは、痛みのコントールによるADLの維持と軟骨の保護を通じた関節変形の進行抑制となる。

MRIで変性軟骨を検知する

ただ、「実際に軟骨を採取することはできないので、軟骨変性を早期に検知することは難しい」(渡辺氏)。そこで同氏が検討しているのがMRIによる評価である。「軟骨に小さな亀裂や穴が開いている程度の早期の変性が生じている場合、分子レベルではプロテオグリカンやコラーゲンの分解など質的な変化が起きている。これをMRIで検知できないか検討している」(渡辺氏)と話す。

同氏は、既に整形外科領域で臨床応用されているT2マッピングおよびT1ρマッピングを用いて、変性軟骨の検知を検討している。T2マッピングは、軟骨のコラーゲン配列や水分含有量の評価に有用なMRI評価法とされる。「軟骨内のコラーゲン配列や水分含有量は、変性の進行に伴い変化する。これがT2値の延長なって表れるので、MRIで評価可能となる。実際、初期の変形性関節症では、通常のMRIでは軟骨の変化は捉えられないが、T2マッピングだと軟骨表面の早期変性を確認できる」(渡辺氏)。

軟骨が変性するとプロテオグリカンが減少

T1ρマッピングは、軟骨のプロテオグリカン度や水分含有量の変化が評価可能なMRI撮像法とされる。「軟骨内のプロテオグリカン濃度は、変性の進行に伴い減少する。正常軟骨と変性軟骨を比較すると、変性軟骨では周囲のコラーゲンやプロテオグリカンが減るので、水分子のプロトンの運動量が増加する。この運動量を数値化することで、軟骨の状態を測定できる。T2マッピング同様、この手法でも軟骨表面の早期変性を捉えることが可能」(渡辺氏)という。

実際のレントゲン結果との比較も発表された。「変形性膝関節症は、レントゲンで変形のないグレード0から変形の強いグレード4に分類される。T2マッピングでは、グレード1から有意な変化が捉えられ、T1ρマッピングではグレード0から有意な変化が確認できた。T2マッピングはコラーゲンと水分含有量に、T1ρマッピングはプロテオグリカンと水分含有量に影響を受ける。軟骨は変性が起きると、まずプロテオグリカンが減少するため、T1ρマッピングはより早期から軟骨変性の評価が可能である」(渡辺氏)と考察する。

▲講演資料より

ヒト試験で臨床評価を進める

プロテオグリカン内服が軟骨に及ぼす影響について、MRIを用いて検討している。49~70歳の9人の被験者(男性7人、女性2人)を対象に、サケ鼻軟骨由来プロテオグリカンを1日10mg、6か月摂取してもらいT1ρマッピングおよびT2マッピングで評価した。その結果、7人で関節軟骨中のプロテオグリカン濃度およびコラーゲン配列の改善を確認した。

「対象群のない初期的な評価だが、プロテオグリカンの継続摂取により、膝関節軟骨の代謝を改善する可能性が示唆された。現在、ベトナムで70人の変形性膝関節症の患者を対象に二重盲検のランダム化比較試験を進めている。プロテオグリカンの摂取が、臨床的な改善効果が見込めるか、引き続き評価を続けていく」(渡辺氏)と方針を示す。

 

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