プロオグリカン、グリコサミノグリカンの構造と機能
PG RESEARCH

研究|プロオグリカン、グリコサミノグリカンの構造と機能

プロオグリカン、グリコサミノグリカンの構造と機能

名城大学薬学部病態生化学研究室教授
山田修平先生

「コンドロイチン硫酸がプロテオグリカンの多様な機能を支える」
「あおもりPG」の構造解析が進展

プロテオグリカンと一口に言っても、様々な構造体がある。中でもコンドロイチン硫酸は、プロテオグリカンの多様な機能を左右する構造部位で、機能解明のためにはその構造解析が不可欠である。名城大学薬学部病態生化学研究室教授の山田修平氏は、「プロオグリカン、グリコサミノグリカンの構造と機能」と題して講演した。

コアタンパク質+グリカン=プロテオグリカン

プロテオグリカンは、コアタンパク質(=プロテオ)にグリカン(=多糖)が共有結合した物質として知られる。「グリカンの中でも、グリコサミノグリカンと呼ばれるアミノ糖を構成成分とする多糖がタンパク質に結合した物質をプロテオグリカンと呼ぶ。グリコサミノグリカンにもさまざまな種類があり、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸のみがプロテオグリカンを構成できる」(山田氏)とプロテオグリカンを定義する。

保湿成分として知られるヒアルロン酸もグリコサミノグリカンの一種だが、プロテオグリカンとして存在することはないという。プロテオグリカンは、ヒトやマウスといった哺乳類だけでなく、アフリカツメガエルやショウジョウバエ、線虫、ヒドラといった幅広い種に分布しているが、植物には存在していない。

プロテオグリカンは特定の分子構造を持たない

ただ、一口にプロテオグリカンといっても、特定の分子構造は定義されていない。コアタンパク質の種類、グリコサミノグリカンの種類によって多様なプロテオグリカンが存在する。

「例えば、ビタミンCやグルコサミンは分子構造が特定されている。プロテオグリカンはコアタンパク質の種類によって分子構造が異なる。コアタンパク質には、アグリカン、ニューロカン、バーシカンなどがあり、それぞれアグリカンプロテオグリカン、ニューロカンプロテオグリカンなどと呼ばれる」(山田氏)という。

代表的なグリコサミノグリカンがコンドロイチン硫酸である。基本構造は、アミノ糖の一種であるN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)とグルクロン酸を1セット(この構造を二糖と呼ぶ)にして、それらが鎖状に結合している状態である。二糖の特定部位に硫酸基と呼ばれる分子構造が結合し、基本構造を修飾している。硫酸基の結合がない「O構造」、硫酸基の結合箇所が異なる「A構造」「C構造」、2~3個の硫酸基が結合する「B構造」「D構造」「E構造」「T構造」が知られている。

「糖鎖の長さは50~200セット(二糖)であり、硫酸基の結合は不均質である。これらの組み合わせでコンドロイチン硫酸は構成されるため、長さも構造も多様な分子となる。その結果として、プロテオグリカンも多様な集合体となる。これが均一な配列を持つDNAやRNAとの大きな違いといえる」(山田氏)。

▲講演資料より

▲講演資料より

コンドロイチン硫酸が多様な機能を発揮

プロテオグリカンの多様性を担うコンドロイチン硫酸は、生体内で軟骨の主成分として分布している。多くの水分子を周りに保持することで衝撃を吸収するクッションの役割を果たしている。また細胞表面で様々な生理活性分子と相互作用し、生理機能を調節している。

「細胞表面に存在するプロテオグリカンはコンドロイチン硫酸を活用し、様々な生理活性機能を調節している。多様な構造を持つので、細胞増殖因子、細胞分化因子、神経栄養因子など様々な生理活性分子と相互作用することが可能である。例えば、線維芽細胞増殖因子などの細胞外からの刺激をトラップし、細胞内にシグナルとして伝え、必要な反応等を調節していると考えられる。結果としてプロテオグリカンは、細胞増殖や接着、形態形成、組織形成など多様な機能を発揮する可能性がある。中でも、生体内での存在比率は低いが、2つ硫酸基が結合した高硫酸化二糖であるE構造、D構造は特殊な機能がある。E構造は、神経突起伸長促進、血管新生、がん転移などとの関連、D構造は視神経に多く、神経突起伸長への関連が報告されている」(山田氏)。

▲講演資料より

あおもりPGの構造を解析

山田氏は、あおもりPGの主成分であるサケ鼻軟骨由来のプロテオグリカンを構成するコンドロイチン硫酸の構造を解析している。

「糖鎖の配列解析は極めて困難なので、構成する二糖の組成を割り出した。O構造が12%、A構造が27%、C構造が59%で、糖鎖の平均数は100セット。またD構造は約2%含まれることが分かった」(山田氏)。複数の構造体を含むことが、あおもりPGの多様な機能を支えている可能性がある。

ヒトのコンドロイチン硫酸は加齢とともにA構造が減少し、C構造が増加することが分かっている。比率は、幼児が50:43なのに対し、高齢者は3:96になるという。今後は、プロテオグリカンの構造の違いによる機能の解析などが進むと予想される。

プロテオグリカンは構造多様性があるため、プロテオグリカンであれば何でも良いというわけではない。あおもりPGはその機能の元となる構造情報が得られているが、他のプロテオグリカンでも同様の構造情報が得られているのか注意する必要があるだろう。

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