プロテオグリカンの多彩な機能と可能性
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研究|プロテオグリカンの多彩な機能と可能性

プロテオグリカンの多彩な機能と可能性

弘前大学院医学研究科
生体高分子健康科学講座特任教授
中根明夫先生

「プロテオグリカンは腸内フローラを改善し、抗炎症作用を発揮する」
分子レベルで作用メカニズムの解明が進む

「プロテオグリカン・ビジネスフォーラム2019」(主催:角弘プロテオグリカン研究所、    一丸ファルコス)が2019年12月3日に開催された。研究報告では、プロテオグリカン研究の中心拠点である弘前大学から、同大大学院医学研究科生体高分子健康科学講座特任教授の中根明夫氏が「プロテオグリカンの多彩な機能と可能性」と題して講演した。同氏は、免疫学的な視点からプロテオグリカンの研究開発を進めている。

プロテオグリカン投与が潰瘍性大腸炎を改善

プロテオグリカン研究開発のスタートは、弘前大学医学部生化学第一講座教授の故高垣啓一氏による、プロテオグリカンの大量抽出・精製技術の確立。サケの鼻軟骨からプロテオグリカンを安価かつ簡便に抽出することが可能になり、産業応用に向けた課題であった“プロテオグリカンの安定的な確保”にメドがついた。

「研究に必要なプロテオグリカンの入手が容易になり、機能性の解析が進んだ。抗炎症作用や細胞増殖促進作用、保湿作用など様々な機能が明らかになった(図1)。中でも抗炎症作用による免疫調節に注目し、動物実験を中心に研究を進めてきた」と振り返る(中根氏)。

まず中根氏が着手したのが、潰瘍性大腸炎のモデルマウスへの投与だ。プロテオグリカンを含むサケ鼻軟骨抽出物を1日1回、4週間経口投与した結果、非投与群と比べ、投与群では有意に体重減少を抑制することを確認した(図2)。「プロテオグリカンが直接、病変の腸管部位に作用し、免疫を抑制した結果と考えている」(中根氏)。

図1

図2

関節炎、多発性硬化症、肥満など様々な疾患への応用可能性

次に進めたのが、プロテオグリカンが直接病変に作用しない疾患での検証。関節炎のモデルマウスでは、プロテオグリカン2mgを1日1回経口投与した結果、非投与群と比べ、投与群では臨床スコアや発症率が有意に低下することを確認した(図3)。多発性硬化症のモデルマウスではマヒ症状を抑制すること確認。脱髄疾患の抑制に効果がある可能性を示唆した。喘息のモデルマウスでは、喘息の原因となるIgE抗体の発現や肺組織への好酸球浸潤を抑制。プロテオグリカンが免疫反応を調節し、喘息予防につながる可能性を示した。

高脂肪食肥満マウスでは、体重増加抑制やインスリン耐性予防につながることを確認。「抗炎症作用により、慢性炎症状態である肥満を抑制する可能性がある。正常マウスには作用せず、肥満マウスにのみ作用する。インスリン抵抗性を改善し、糖尿病予防につながる成果だ」(中根氏)と強調する。

図3

免疫細胞をコントロール、抗炎症作用を発揮

プロテオグリカンは、免疫細胞の“アクセル役”と“ブレーキ役”を調節し、抗炎症作用を発揮している。「プロテオグリカンの抗炎症メカニズムを腸炎モデルマウスで検証した。経口摂取により、体内の免疫活性化に関与する炎症性ヘルパーT細胞のTh17、Th1の分布を特異的に抑制し、インターロイキン-17やインターフェロン-γ、TNF-αといった炎症物質の発現を抑制する。一方、免疫応答を抑制する制御性T細胞(Treg)の活性化・増殖やそのマスター遺伝子であるFoxp3の発現を誘導する。多発性硬化症のモデルマウスでは、脾臓やリンパ節でTh1、Th17の誘導を抑制し、Foxp3の発現を促進していた」(中根氏)。体内の炎症反応や免疫反応の調節に関与する生体分子の抑制と誘導を調節することで、幅広く炎症性疾患の抑制に効果を示すと考えられる(図4)。

一方、プロテオグリカンは腸管で消化吸収されず、排泄されてしまう。「体内には吸収されにくいが、腸管の免疫応答を制御して、全身の免疫応答に波及し、抗炎症作用を発揮しているとみている」(中根氏)。

図4

腸内フローラを改善

カギを握るのが腸内細菌。ヒトの腸管にはビフィズス菌、大腸菌など約1000種類、100兆~1000兆個の腸内細菌が存在し、腸内フローラを形成している。その乱れは、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸疾患だけでなく、肥満や糖尿病、心疾患、自閉スペクトラム症など、様々な疾患への関与が指摘されている。

マウスにプロテオグリカンを経口投与し、腸内フローラの変化を調べた試験では、小腸において免疫応答や短鎖脂肪酸の産生に関与する善玉菌が増え、一部の悪玉菌が減少することを確認(図5)。プロテオグリカンが、腸内フローラを改善し、腸管免疫を刺激し、抗炎症作用を発揮すると考えられる。

「プロテオグリカンは少量で効果を発揮し、吸収されにくいので副作用の心配も少ない。現在は経口摂取や塗布が中心だが、常在菌が存在する口腔内や鼻腔内投与も選択肢となる。抗炎症作用という観点からは、サルコペニアやフレイル、アルツハイマー病などへの適応など、広い意味でのアンチエイジング効果が期待できる。プロテオグリカンの分解物の生理活性の解明が進めば、低分子医薬品の可能性も見えてくる」(中根氏)。今後の研究の進展に期待がかかる。

図5

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